大判例

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高松高等裁判所 昭和30年(く)1号 判決

本案事件の記録により本件公訴事実とその認否、並に公判審理の経過を調べると、公訴事実は「被告人阿部重一は大陽石油株式会社所属のトロール船第八盛漁丸の船長として、被告人阿部美晴は同船の甲板長として何れもトロール漁業に従事して居るものであるがこの業務に関して共謀の上昭和二十九年十一月二十五日頃農林大臣指定の禁止区域である南宇和郡の内海において前叙第八盛漁丸並に僚船第九盛漁丸及び底曳網等を使用し各船の乗組員(木幡源六外二十名位)を指揮してトロール漁業を為し、以て中型機船底曳網漁業を営んだものである」というのであつて、この事実は被告人等の否認するところである。そして検察官の立証として先づ現行犯人逮捕手続書、第八盛漁丸、第九盛れ漁丸密漁事実確認報告書、実況見分調書等の取調後証人川口健二外六名(何れも第八盛漁丸の乗組員)の尋問が行わた上刑事訴訟法第三二一条により川口健二外四名の裁判官の証人尋問調書、川口健二外五名の検察官に対する供述調書の取調べがあり更に証人川口健二外五名の供述の証明力を争うため同法第三二八条に基き同人等の海上保安官に対する供述調書、昭和二九年一二月二二日附川口健二外四名の検察官に対する供述調書等の取調べが行われているに反し、公訴事実を否定することを立証趣旨とするS弁護人請求の証人木幡源六外五名、及びN弁護人請求の証人廉田善蔵外三名は何れも却下せられ弁護人請求の証拠調は何等行われていないことが明らかである。

(一) 凡そ刑事訴訟における証拠調の限度については刑事訴訟法に明記しないところであり採否の判定は原則として裁判所の裁量に委ねられていることは認めなければならないが当事者訴訟主義を強化した現行刑事訴訟法の性格から考えて証拠能力があり、事件と関連性があり、既に取調べた証拠と重複せず、当事者の攻撃、防禦に必要にして欠くことができないと認められるものについては証拠調を行わなければならないものと解すべきであり、本件においてS弁護人請求の川口健二外五名の証人は検察官の請求による取調済の証人川口健二外六名の証人と重複し且その取調べの際右弁護人から反対尋問も行われていることが認められるからこの請求を却下したことに違法はなく勿論不当ともいえないがN弁護人請求の証人廉田善蔵の如きは右証人川口健二外六名と共に本件違反行為の行われたという当時第八盛漁丸に乗組んでいたものであり事件と関連性のあることは勿論重複する立証方法でなく寧ろ被告人の唯一の防禦方法というも過言でない。然るに検察官の立証としては既に取調べられた証人の供述の証明力を争うためにも証拠調が行われているに拘らず弁護人請求の証拠調を全部排斥し去つた係裁判官の措置は裁量の限度を超えて違法の疑を容れる余地あることを否定できない。

(二) 然し仮に証拠調請求に対する決定が違法なりとしてもこれを以て直に不公平な裁判をする虞れあるものとして裁判官を忌避する事由ありとは速断できない。蓋し刑事訴訟法第三〇九条、刑事訴訟規則第二〇五条は違法な証拠決定に対しては異議申立によりその取消を求める方法を規定するのみならず若し異議が容れられない場合には控訴審において原審の訴訟手続の違法が判決に影響を及ぼすことを理由としてその是正を求め得る筈であるからかゝる刑事訴訟法の立前から考えると単に証拠決定が違法なることのみを以ては不公平な裁判をする虞れありという忌避の理由には当らないものと解するのを相当とする。本件においては他に係裁判官が不公平な裁判をする虞れありとする事由は見当らないから忌避を理由なしとした原決定は結果において正当である。

(裁判長判事 三野盛一 判事 谷弓雄 判事 合田得太郎)

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